ユナイテッドは常に前に進んでいく一台のバスである
2010年3月 2日
仁義に背いても、たとえ二重契約の謗りを受けても獲りたい選手は獲る。ファーガソンはハイジャックさながらの取引でロイ・キーンを獲得した。
その夏、ファーガソンはノッティンガム・フォレストの若きミッドフィールダー、ロイ・キーンを買った。彼こそは、ユナイテッドがカントナに負けず劣らず重大な影響力を及ぼすと期待されたプレーヤーだった。
ただし、キーンに限ってはカントナのように熨斗(のし)付きで頂戴できたわけではない。ファーガソンとエドワーズは、この獲得を取り付けるためにどんな手段も厭わない構えだった。タフで闘志あふれる屈強なキーンは、年をとったブライアン・ロブソンに代わる完璧なリーダーになり得る器だった。なにしろ、前シーズンに対峙した折、そのロブソンを子ども扱いしたのみならず、アンフィールドでのデビュー戦では「貴様、何をじろじろ見てやがる」と噛み付いてジョン・バーンズを驚かせた男である。
だが、彼を熱烈に崇拝していたのはユナイテッドだけではなかった。鉄鋼ビジネスをあっさりと売り払い、生まれながらに愛情を注いできたクラブに湯水のごとく資本を投下してきたジャック・ウォーカーの肝煎りで躍進著しいブラックバーンが、突如としてキーン獲得のポールポジョションに立ったのである。
ファーガソンがオールド・トラッフォードに足場を築いている間、リヴァプールに三度のリーグ優勝と二度のFAカップ制覇をもたらしたケニー・ダルグリーシュは、早々と着地に成功したはずだった。彼はキーンと直接、口頭で合意に達していたのだった。しかし、ファーガソンは歴史的により優れたユナイテッドの品質保証印を手際よく使ってキーンの野心をくすぐり、ハイジャックさながらに取引をまとめてしまう。
激怒したダルグリーシュは、監督のルールブックに厳然と存在する"道義的な掟"を破ったとしてファーガソンを糾弾した。が、ファーガソンは意に介さなかった。彼にとってキーンとは、仁義に背いても、たとえ二重契約の謗(そし)りを受けてもなお、価値ある賞品だったのだ。
最終的にユナイテッドが支払った移籍金、当時のイングランド史上最高額375万ポンドは、ファーガソン一世一代級の投資を証明するものだった。これによって、彼はライバルたちと己(おの)がドレッシングルーム双方に重大なメッセージを送ったのである。たった一度きりのタイトル獲得で満足などしてなるものか! そこには、より高く、より多くを目指すハングリーな監督、勝利に憑かれ、その虜になった一人の男の姿があった。
彼は決意していた。あとは自然に未来が開かれていくものだと思い込んでしまう罠には落ちるまい、それまでユナイテッドを率いてきた多くの者たちが犯した同じ罪を犯してはならない、と。その決意は、シーズン開幕に当たってプレーヤーたちに授けた短い訓辞に要約されている。
「ユナイテッドは常に前に進んでいく一台のバスである。乗り込んで心ゆくまで旅を楽しむか、降りて去っていくかは君たち次第だ。君たちの席を虎視眈々と狙っているプレーヤーはごまんといる。何が起きようと、君たちがいようといまいと、バスは進んでいく」(16章 気障で気になる異邦人より)

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