サカつくを作ろう!-初代サカつく制作秘話-
2010年6月 2日
今から14年前。まだ日本はワールドカップに出場したことはなく、サッカーに対する知識も今に比べれば少なかった。海外サッカーの情報も一般的ではなく、戦術を語る言葉も決して多くはなかった。
そんな1996年、『J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!』は発売された。現在では定番ゲームとなり、20作品以上に展開されている「サカつく」だが、当時、セガは「確実に売れる」と思っていなかった。
2作目となる『J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!2』の開発は、「初代サカつく」が20万本以上のヒットを記録したため決定。当初は開発陣も「サカつくが続くかは1作目の反響次第」と考えていた。しかし、『J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!2』も50万本の大ヒットを記録。以降14年間、セガの看板ゲームとしての地位を「サカつく」は築いた。
今回は「初代サカつく」のメインプランナーであり、その後ディレクター、プロデューサーを歴任した大橋修氏、その後を継ぎ、『J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!6』のプロデューサーを務めている山田理一郎氏のお二人にインタビュー。1996年当時、「初代サカつく」が作られた経緯を聞かせていただいた。

左が山田理一郎氏 右が大橋修氏
――今でこそ、マルチに展開し、サッカーゲームの定番ともなっている「サカつく」ですが、冷静にゲームシステムを考えてみると、「これよく発売できたなあ」という感じがします。普通サッカーゲームだったら、アクション性の高いものが好まれると思うのですが、どういう経緯でこの企画がスタートしたのでしょうか?
大橋
まあ、いろんな状況があって、通った企画だと思っています。93年にJリーグが開幕して、「ドーハの悲劇」があった。サッカーがすごく盛り上がっていた時期です。
当時、セガはアクションのサッカーゲームも出していた。
メガドライブの『Jリーグプロストライカー』やサターンの『ビクトリーゴール』。アクションサッカーを作るチームはできあがっていたんです。
そこで、「アクションじゃないものを、盛り上がっているサッカーでできないか」という話が持ち上がったのが最初です。
――最初はどういう企画だったのでしょうか?
大橋
最初の企画書は、かなり違いましたよ。もっと猥雑な部分が多かった。
例えば、選手が夜遊びばっかりしていたら、活躍していても、週刊誌で叩かれて能力が落ちるとか。もちろん、無理でしたけどね(笑)。
当時は「サッカー好きなのに、知識がない」っていう人が多かった。だから、バカバカしい部分で、手に取りやすくして、真面目なサッカー知識を増やすようにしようと考えていたんです。ちょっと変わったゲームを作りたかったんですよ。
――けど、できたものは、相当真面目じゃないですか?
大橋
それはライセンスの取得があったからです。この企画、当初は「ライセンスなし」でやろうとしていました(笑)。「ジェフ」のことを「ジラフ市原」とかに代えたり、チーム名を動物の名前にしたり。
――「さいたまエレファンツ」とか?
大橋
そうそう。そういうのを作っていたんだけど、途中でライセンスの話になる。けど、正式にライセンスを取ると猥雑な表現はできない(笑)。バカバカしい面白さを出そうとしたんですが・・。
少し前までは野球ゲームでも、「清原」を「キヨヘラ」とかしていた時代があったんですけど、当時はそれが移り変わる時期だった。
それで、Jリーグに正式に企画の話をする前に、一般常識的にイメージを壊さないように修正する必要がありますよね(笑)。

――特に最初のゲーム、見たことがないゲームだと、すり合わせは大変だと思います。
大橋
「移籍金」っていう言葉一つ取っても、「表現として正しいのか」という話し合いになりましたからね。
――新人選手の場合はトレーニングフィーであったり、いろいろな言葉がありますからね。
山田
あとJリーグは、マーケティング的に、野球との差別化をすごくやっていたんだと思います。例えば、「精神力」はダメで、「メンタリティ」にするとか、「根性」というような表現は使用しないとか。
大橋
そもそも、このゲームを作って良いのかって話だったんですけどね(笑)。その後OKを頂きましたけど、やっぱり言葉をカタカナに変更したり、文章表現を変えられると、意味が分かりづらくなってしまうことがあった。
例えば、今だったら「4-4-2システム」って言葉が普通に通じますけど、当時は「システム」より「フォーメーション」という言い方が一般的だった。
Jリーグ側も、このゲームを通じて、「正しいサッカー用語、知識を伝えたい」というのはあったのだと思いますが、知識の少ないユーザーには分からない人がいると思ったもので。
――けど、その苦労の甲斐もあって、「サカつく」はヒットしますよね。
大橋
個人的な主観ですが、「サカつく」は最初、「セガを支える主力になるゲーム」とは思われていなかったと思っています(笑)。自分自身、作っていて、「これ、本当に面白くなるのか?」って不安でしたしね。
「サカつく」って開発末期になって、やっと面白さが分かってくるんです。一回「サカつく」を作ってみたら、「開発のこの段階から面白くなる」っていうのが分かる。まあ、ベータ版ができた頃なんですが(笑)。ただ、一回目はそんなこと分からない。一年間通して、あるいは数年間やらないと、「サカつく」の面白さが伝わらないから、ちゃんとプレーできるようになるまでは、分からないんです。
アクションゲームは、「ジャンプが心地よい」とか、そういう感覚で「面白くなりそう」っていうのが分かるんです。けど「サカつく」は、ある日突然、「あ、散りばめた要素がつながった!」ってなって面白くなる。
山田
シミュレーションゲームって、一つの要素が独立しているわけじゃない。本当に、いろいろな仕掛けが関わってくる。「ある仕掛けが、一年後に効いてくる」みたいなのが面白いんですよね。
大橋
頭の中には当然あるんですよ。一生懸命練習させて、システムを試行錯誤し、勝てなかったチームに勝てると嬉しいって。
けど、やっぱりベータ版ができて、実際にゲームで勝ってみないと分からない。ただ、やってみたら面白かったし、「サカつく」は結構売れた。
――「サカつく2」になると、50万本を越えるヒットになりましたよね。
山田
たしか、「ジョホールバルの歓喜」と同じくらいの時期に、「サカつく2」は発売されたんです。ジョホールバルの試合では、「サカつく2」のCMも、たしか流れていた。
「岡野のVゴールでドカーンとヒット」みたいな感じですね。サッカー自体が右肩上がりで、その波に乗りましたね。今とは全然違う。
大橋
「サカつく2」以降はブランドとして確立しましたね。他にないものだったから。
山田
俺も「サカつく6」を作った時に、「改めてすごいな」って思ったんです。他の会社に行っても、「セガのものです」っていうと、「あ、サカつく好きなんですよね!」という人は必ず一人はいる。特定の世代の人にはすごくメジャー感があるんですよね。
スポーツ紙でも、負けたチームの関係者コメントで「サカつくじゃないんだから」って話になったりもするし(笑)。あと、このタイトルも凄いと思っているんですよね。こんな長いタイトル良くつけたなと(笑)。しかも「○○をつくろう!」っていうのは、いろんな場所で使われている。
このあいだの「龍馬伝」も、「海軍を作ろう!」っていうタイトルだったぐらいですからね。

――たしかに影響力はとても大きい。また、それだけの影響力があったからこそ、14年も続いているんだと思いますよ。けど、この14年で「サカつく」も結構変わりましたよね。
大橋
だいぶ変わっていますよね。今は、サッカーの知識が豊富な人のための「サカつく」になってきている。14年前に比べたら、お客さんのレベルが格段に上がっている。昔は「サカつくでサッカーを覚えた」っていう人がいた。女性とかにもね。
今は違いますけど、初期の「サカつく」では、それほど忙しくない社員にゲームのチェックをしてもらっていたんです。当然、女性社員にもやってもらう。その中で、サッカーが好きになった人もかなりいた。
逆に言えば、まったく知らない女の子がやってみて、分かるレベルにしていたんですよね。
そういえば、最初は僕、オフサイドをプログラマに教えていたし(笑)。
山田
昔は、「サッカーについて詳しい人」ってあんまりいなかったと思うんです。例えば、「マンチェスター・シティの選手」なんて、そんなに知られていなかった。けど今だったら、それくらいは知っていないといけない。ただ難しいのは、詳しい人に合わせすぎてもダメだということですね。
「サカつく」はゴリゴリのシミュレーションじゃないですから。シミュレーションっていうよりも、育成面が強いタイプのゲームです。それが誰でも遊べるようなゲームである所以かなと。
大橋
もともと僕、シミュレーションゲームってあんまり好きじゃないんです。戦争もののシミュレーションとか、データベースを一つずつ見て、緻密に計算してっていうパターンになる。
そういうゲームじゃなくて、「サカつく」はニュアンスで適当に遊べるゲームにしたい。あんまり数値は出したくなかったんです。
――サッカーってそういうものですものね。
大橋
野球に比べると、サッカーには全然数値が出てきませんからね。打率もないし、守備機会数もないし、エラー数もない。
「なんとなくうまい選手」だったり、あるいは「調子いいから使う」っていう感じだったりする。そういう表現をするために、できるだけパラメータを表示しませんでした。その代わりに、言葉で説明する。「調子がよさそうですよ」とか「世界的に活躍できる選手」とか「国内レベル」とか。
「今日はあの選手がいいのかな、悪いのかな」ってすっと頭に入ってくるように。
もちろん、言葉だけでもつらいので、チーム全体の能力と攻撃力、守備力くらいは分かるようにしておきました。
――「サカつくシリーズ」では、「パラメータが少ない」ってよく言われますよね。けど、それはあえて隠している。
山田
「パラメータをもっと見えるように」というお客さんもいるので、そこは考える必要はあると思いますけど、基本路線として「サカつく」では極力避けたい。いろいろ考えなければいけないのですが。
大橋
僕らとしては、お客さんが考える負担を少なくしたいんですよね。それに、隠すことで、いろいろと想像してくれるし、そこで初めて、オカルトも生まれてくる。
全部の情報を出さないからこそ、「あいつとあいつを組み合わせれば、すごくなるんじゃないか」って楽しみができる。本当に仕込んでいる場合もあるし、何もやっていない場合もあるけど。まあ、やっぱり黙っておこうか(笑)。
――そういう曖昧な部分がなくなってしまうと、「サカつく」じゃなくなりますよね。
山田
それと、ちょっとバカバカしい感じはやっぱり残していきたい。バカなテイストは「サカつく」には必要です。選手が不満でいっぱいだったり、急に高い年俸を要求してくるとか…。「なんだよ」って思う部分も含めてですね
大橋
誇張表現をしないと、ゲームとしての面白さは出にくいですからね。しかし、よくよく考えれば、「給料の不満」という表現を入れたということ。そこにゲーム的な必要性があることを理解していただき、ライセンスの許可をいただけたのは幸いでした。
山田
いまだに、年棒への不満は、伝統として続いていますしね。
大橋
ああいうのを言わせたかったんですよ。うまいやつほど、強い奴ほど、不満を言ってくる。不満が多いこいつを生かそうか、それともチームワークを取ろうか。それが面白い。
そもそも、単純にうまい選手を集めれば勝てるっていうゲームは作りたくなかった。有名な選手を集めて勝てるんだったら、答えは一通りしかない。しかし、現実のサッカーは、3部のチームが有名チームに勝ったりする。
それほど強くないチームでも、うまく連携すれば倒すことができるっていう感じにしたかった。
山田
いろんな紛れ要素を作っているし、意図しないで紛れ込んじゃう要素も、実は少しある(笑)。そういう要素で、ジャイアントキリングが起こりうるんです。
大橋
そもそも、パラメータが大きいチームが、100%勝てるようにはなっていないからね。
山田
そういう仕込みはいろいろしているし、100%なこと、確実なことがないアバウトさ、サッカーっぽさが「サカつく」には必要です。それによって、表現できることがある。
普通のアクション系サッカーゲームだと、スピードのある選手。クリスチアーノ・ロナウドやアンリみたいな選手の凄さは表現できるけど、シャビとかイニエスタの良さって中々表現できないと思うんです。けど、実際のサッカーでは中盤で試合をコントロールすることが大事だったりする。
中盤の選手の質が高くなることで、ガラリと強くなるのがサッカーっぽいし、実際にそういうことは起こる。そういう面白さは、アクション系のサッカーゲームでは出しにくいけど、「サカつく」なら出せるんです。
――初期の「サカつく」から変わっていないものっていうのは、そういうテイストなんですね。発売されたばかりの『サカつくDS ワールドチャレンジ2010』になると、相当変わったような気がするんですが、でもその伝統はたしかに残っていますね。
大橋
DS版に関して言えば、企画の立ち上げにしか関わらなかったのですが、僕は根本が変わっていなければ、何をしても良いと思っているんです。
14年も経てば、状況が全然違う。むしろ、周りに合わせて変えていかなければならない。今の面白さに変るべきだと思う。
DS版は、「試合に賭けている部分」があるから、やっぱりそれを堪能して欲しいですよね。
――次回作以降で、何か違う切り口を考えていたりしますか? 14年前の「サカつく」みたいな画期的なものを。
大橋
うーん。例えばなんですけど、サッカーだけのシミュレーションにこだわる必要もないと思うんですよね。野球チームも一緒に運営するゲームがあってもいい。
その上で、身体能力の高い室伏広治みたいな人を、FWにしてみたり、イチローはウィングにしてみるとか。松井秀喜はやっぱり野球選手だったり、清原和博は格闘技の選手として育てたり(笑)。
――あはは。たしかにそんなゲームは面白そうですね。今日はありがとうございました。
【文・取材 黄慈権】



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