第86回高校サッカー選手権展望(後)
サポティスタ編集部
毎年恒例、
エルゴラッソ編集部・川端暁彦氏を招いての高校サッカー選手権展望の後編。
(→前編)
第86回全国高校サッカー選手権大会トーナメント表
http://www.ntv.co.jp/soc/greport/index.html
1回戦なんて突破して当たり前
川端○等々力はメジャーな選手が勢ぞろいしますね。藤枝東はおなじみの名門ですけど、今年はいいチームになりましたよ。しかし、静岡勢は97年度の大会でベスト4に入って以来、国立がないんですよ。
岡田●そんなになるんだ。
川端○この前、ベスト8まで行きましたけど、ここのところ1回戦2回戦での敗退が続いているので。静岡の人はそうとう気にしてます。自分なんかは、それが逆にプレッシャーになって良くない結果を生んでるんじゃないかって疑いを持ってますが。
岡田●なんでなんだろうね?
川端○見も蓋もない言い方をすれば、そこまで強いチームが出てきてないというのもあると思うんですよ。ただ、静岡と同レベルかそれより少し弱いくらいのチームでもベスト4に入っているので、それとは違った次元で何かあるのかなとも思います。運不運とか巡り合わせとか。静岡サッカーの力自体が落ちているといえば、確かに落ちているんだろうけれど。
岡田●それは相対的に?
川端○う〜ん、絶対的に、かな。静岡だけは全国と違う流れがあって、今は力のある子はJクラブに進む子が多いんだけど、静岡だけはJクラブを蹴って高校サッカーに進む子が少なくないです。その流れがあるんで、今回どうなるかは分からないですけど、静岡のチームはそう遠くないうちに優勝すると思ってます。強いチームが多くて分散しちゃう部分はあるんですけど。それを補えるだけの地力はある。
岡田●なぜそういう現象が?
川端○メディアの力だと思いますよ。静岡は高校サッカーの取り上げられた方が半端じゃないんで。それこそ、新人戦からプリンスリーグから、小さい大会でも写真付きで記事が出るし。テレビメディアも毎週のようにそれを追いかけるし。そういうのを見てると、高校サッカーを選ぶ中学生が多いのもよく分かります。一時期、静岡も軒並みユースへ、という風潮があったんですけど、すぐ消えちゃいましたね。
岡田●今でも静岡出身のJリーガーって多いよね?
川端○でも、相対的に見ると減ってます。上の世代は多いけど、下に行くと有力選手は減ります。年代別代表なんかを見ても、今は静岡の選手、入ってないこと多いですから。
岡田●そういう時代なのか。
川端○でも、今年の藤枝東はいいチームですよ。352のオーソドックスなサッカーで、3枚のDFはみんな力があって。5番の石神くんは、すごくよく気が付くミスの少ない静岡らしいボランチですね。163cmの県予選のMVPだった河井ですけど、彼もドリブルで仕掛けられるしパスも出せる。で、エースの松田純也、左利きのストライカー。岡崎くんが頑張り屋さんタイプで。バランスもいいですね。あとは運さえあれば…。取材に行くと毎回思うんですけど、静岡はやっぱり独特ですね。閉会式で「1回戦なんて突破して当たり前」とか偉い人が言うわけですよ。ええっ、って思いますよね(笑)。で、その1回戦は香川西。ここは強いです。強いというと語弊があるんですけど、一般に香川代表と言われてイメージされるよりかは、間違いなく強いです。2年生が多いんですけど、三野田、景野、登里、村上、中西…。この辺はいい選手ですし、駒は揃っています。まあ総合力は藤枝東の方が上だと思いますけど「1回戦なんか突破して当たり前」と思って戦えば負けると思います(笑)。
この会場は、第2試合の室蘭大谷×境もいいカードなので、おもしろいと思います。室蘭大谷は宮澤くん。4チーム、柏、マリノス、鹿島、札幌が競合して、本人は札幌を選んだ。なかなかおもしろい選択をする子ですけど。
岡田●地元を選ぶっていうのは、いい子だね。
川端○彼がFWなんで、攻めのチームだと思われるかも知れませんけど、今年は守りのチームです。近藤大輔を中心にしっかり守って、頼むぞ宮澤、という。1年生の天満って子もいい選手なんですよ。去年の全国大会でも活躍していた。相手の境も丸谷っていうU18代表の選手がいて。この子は広島に行くんですけど、けがしちゃったんですよね…。境も去年は2年生ベースのチームで試合して、そのメンバーが過半数の残っていますから、いい試合にはなると思います。
岡田●このブロックは粒ぞろいなんだね。
川端○わりと大変ですよ。藤枝東は苦労すると思います。
野洲は来年の優勝候補じゃないでしょうか
岡田●ちょっとお店の閉店時間が迫ってきたので先を急ぎましょう。あと外せないのは?
川端○埼玉栄×ルーテル学院。2回戦の好カードですね。埼玉栄はエスクデロの親父さんがコーチをしている南米スタイルのチーム。
岡田●ルーテルは熊本代表か。熊本は激戦区だよね。
川端○決勝で負けた熊本学院大付属もいいチームだったし、もちろん大津もいますし。
岡田●九州は熱いね。野洲も訊いておきましょうか。
川端○野洲は来年の優勝候補じゃないでしょうか。先発に2年生が9人。この2年生は何なのかというと、ちょうどあの優勝を見て入ってきた選手たちです。結構なタレントが揃っています。2年生が修学旅行に行っている間にやった練習試合ではボコボコにされてたりするんで。
岡田●さっきの0−5ってヤツがそれね。
川端○そうですね。優勝したり騒がれた代を見た選手たちが入ってきて、その代がまた結果を残すっていうのはありがちなパターンなんですよ。このブロックは東福岡のほうが強いかもしれないですね。ここはMFの井上を中心によくまとまっています。横山くんという左足のタレントもいますし。
岡田●続いて、中京大中京。
川端○去年は伊藤翔で注目されましたけど、実際は2年生以下の選手がほとんどで、来年のチームだったわけです。つまり今年のチームだったと。昨年のレギュラーがかなり残っていますし、伊藤翔の弟、伊藤了もいます。DFの早坂はパスも出せる大型選手。大岩がいて熊澤がいて。早川はわりとスペシャルな選手。結構強いんじゃないでしょうか。
岡田●次は星稜。
川端○星稜は強いですよ。今年はストライカーらしいストライカーがいませんが、DFは新潟に行く鈴木大輔という選手がいて、リーダーシップがすごくある選手なので、彼を中心にまとまっていて。インターハイでも準優勝しましたけど、順調に行けば、優勝候補の一角ですね。
今大会のメインキャスト
岡田●あとはどこですかね?
川端○流経かな。今大会のメインキャストですよね。全日本ユースチャンピオンですから。
岡田●おもしろいサッカーしてたね。
川端○ハイプレスですね。
岡田●選手権もあれで行くんですか?
川端○本田先生もチラッと言っていましたけど、そのまんまのサッカーはできないかな、と。確かに、インターバルがほとんどないので、あのテンションのサッカーを続けるのは難しいかもしれない。あと、あれだけ騒がれるとみんなから分析されるので、なかなかあのままというわけにはいかないのかなと。基本的なラインは同じだと思いますけど。清水に行く10番の大前。彼と上條の2トップは大会で1番を争う力はあると思います。天野くん中心のDFも及第点。優勝候補ではあります。ただ、なかなか難しい。
岡田●どう難しいの?
川端○やっぱり一回、高円宮杯優勝の達成感があるじゃないですか。正直、県予選も内容は良くなかったです。2か月しかないインターバルで、もう一度気持ちを切り替えてタフな全国大会を勝ち抜くのは本当に難しい。本田先生は経験のある監督なので、たぶん立て直してくるとは思うんですけど。
岡田●1個取るのと2個取るのって難易度が3倍くらい違うからね。
川端○あとは日章学園か。ここもJに行く選手がいます。6番の黒木がC大阪に行く。わりと渋いボランチですね。10番の早稲田は監督の息子さんです。注目は11番の伊勢くんですね。1年生なんですけど、この大会の1年生FWでは一番かな。国体なんかでも活躍したんですよ。宮崎は4位に躍進して、そのときのエースストライカーが彼です。彼はおもしろいです。何をやるか分からない系のFWで、運動能力がずば抜けています。かなり強いと思いますよ。ここは鵬翔と張り合っていて、4連覇くらいされていたんですけど、ようやくタイトルを奪還という感じですね。さらに宮崎日大も中高一貫で強化しているので、これからの宮崎は戦国ですよ。
岡田●九州はすごいね。熊本とかも大変だし。
川端○鹿児島も厳しいですからね。福岡は昔からだし。
岡田●鹿実でも楽じゃないんだもんね。神村学園がいて。
川端○神村と鹿児島城西と。来年の城西は強いでしょう。
選手権くらいはトーナメントを残しておいてもいいんじゃないかな
岡田●負けちゃったけど、国見には触れておこうか。
川端○弱くなって負けたと思われているようなんですが、今年の国見は良かったんですよ。昨年、一昨年に比べたら、チーム的にもタレント的にも強かったんです。でも、昨年、一昨年は勝ち抜けて、今年は勝ち抜けない。去年見たときは、完全に来年のチームだなって感じで…。今年はセレッソに行く白谷とか良い選手がいたんですけど。
岡田●そこがトーナメントの難しさだね。そうだ、せっかくだから聞いておこうと思うんだけど、ストライカーで古沼さんが選手権にリーグ戦を導入しろって言っているでしょ。あれはどう思う?
川端○これは個人的な意見なんですけど、選手権くらいはトーナメントを残しておいてもいいんじゃないかなと。逆に、他の大会をリーグ戦化を進めていくことをしてもいいのかなと。本当はインターハイをグループリーグありにすると良いんだと思いますけど、これも簡単じゃないですけど。
岡田●そちらを変えて選手権はトーナメントで残しておいた方が良いと。
川端○グループリーグ導入を実現できるかどうかといえば、可能性はあると思います。テレビ放映の壁はあるでしょうけど。本当はグループリーグよりも45分ハーフを考えた方がいいんじゃないのかとも思うんですけど。これもテレビ的な問題がある。45分ハーフにするとテレビ放映の尺に収まらなくなりますから。この大会がこれだけの大会として成立しているのはテレビ放映あってこそですし。
古沼先生のおっしゃっていること自体はすごく分かるんです。昔は自分も賛成派だったんで。けど、一発勝負の経験はそれはそれで貴重かなと。一発勝負だとキレイに終われますし。高校で選手人生を終えるっていう選手がたくさんいるんですよ。最後の試合が消化試合か、強豪相手に敗れるかでは、だいぶ違いますよね。予選レベルでは協会も導入を進めているのでグループリーグを導入するところは増えていて、全国の半分近くの地域では予選のどこかの段階では導入されているんです。それを見ていると、消化試合ができるのがすごく切ないんですよね。見てられないような暗い試合が出てくる。きっちり負けて終わるのと、消化試合でサッカー人生終わりって、その空虚感って何か違う感じがするんですよね。そこでサッカーを終えること自体が間違っていると言われると思いますけど、現実に日本のスポーツ文化はそうなっている。
岡田●それは確かにあるかもね。トーナメントなら1チーム以外は全部負けて終わるわけだから。
川端○負けて終わるにしても、最後の試合がどういう試合かという話ですよね。プライオリティの問題ですよ。1回しか試合できなくてかわいそうじゃないか、というセンチメンタリズムと、最後が消化試合じゃかわいそうじゃないかというロマンティシズムと。どちらも感情論なんですけど、リーグ戦導入に、その通りだって素直には言えない自分がいるのは事実です。強いチームにしてみると、勝ち残る可能性の高くなるグループリーグ導入は大賛成でしょう。でも大会には弱いチームも出てくるわけで、3戦3惨敗とかもあり得るんですよね。
もう一つには、一個くらい完全トーナメントの試合を残しておいた方がいいんじゃないのって気もしています。負けたら終わりだから選手権の一試合一試合ってものすごいタフな試合になるじゃないですか。引き分けでもいいですよっていう経験も必要ですけど、そうじゃない経験もあっていい。今、ものすごいスピードでユース年代はリーグ戦が増えていますから、選手権じゃなければ、リーグ戦の経験を積めないっていうのはナンセンスでしょう。むしろ選手権だから積める経験もある。
岡田●大会の盛り上がりっていう意味でも、一発勝負の方がおもしろいよね。入れ替え戦なんかもそうだけど、かかっているものが大きな試合の、その必死さって上手い下手じゃなくてサッカーとか全然知らない人にも届くんだよね。
川端○そういう部分もあるでしょうね。高校サッカーがサッカーの普及面で果たしている役割というのも確実にあるわけで。本当にギリギリまで追い込んでその1試合にかけて、みたいな経験そのものは悪いものではないと思っています。ただ、導入賛成派の理屈も分かるので、ホントに難しいんですが…。
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