コラム

「サッカーはジャズ」 この言葉から推測できる岡田武史の魅力

黄 慈権

【名選手であることのアドバンテージ】
「名選手、名監督にあらず」
サッカーのみならず、スポーツの世界でよく聞かれる言葉だ。しかし、名選手であることは監督として確実に有利に働く。特に監督就任初期は、絶大なアドバンテージであることは間違いない。
監督は、選手から信頼されなければ成り立たない仕事だ。レギュラーだった選手を控えに回したり、得意でないポジションを命じることもある。結果が出ている監督であれば、そういう命令にも選手たちは従うだろう。しかし監督就任当初は、結果もなにもない。そんなとき、現役時代の名声は実に便利だ。
実力の世界であるサッカー界。「お前より上手いんだから、言うことを聞け!」というプレッシャーは有効であるに違いない。
その証拠に、ブッフバルトやラモス、先日名古屋グランパスの監督に就任したストイコビッチなど、「腕に覚えがある監督」は積極的にチームの紅白戦にも参加する。紅白戦で実力を見せ付けることで、選手の信頼を自然に得ることが出来るのだ。
しかし現在の日本代表監督、岡田武史にはストイコビッチほどの名声はない。代表キャップ24は普通に考えれば立派だが、代表選手を黙らすほどの経歴ではない。しかし、最初に日本代表をワールドカップ出場に導いたのは岡田武史だ。

【就任当初という難しい時期】
おそらく今回の東アジア選手権、岡田武史にとってはもっともむずかしい時期だったのではないだろうか? 監督に就任してすぐ。ある程度の結果を残さないと、今後選手たちから信頼はされない。しかし、同時に「やりたいサッカー」があり、「試したい選手」もいる。そのテストの過程で、選手たちにとっては納得のいかない起用をさせる必要も出てきただろう。「加地の左サイドバック」はとても顕著な例だと思う。
現在では、「日本をワールドカップ初出場に導いた監督」という名声があるため、10年前ほどの「やりにくさ」はないと思うが、それでも就任当初は難しい。
そういう難しい状況で向かえた、完全アウェーの東アジア選手権。岡田武史は限られた選手たちをうまく使って戦ったように見えるし、それが可能なのは、選手たちを納得させるだけの魅力を岡田武史が持っているからだと思う。僕が具体的に「選手を引きつけるような力」の片鱗を感じたのは、「サッカーはジャズですから」という言葉からだ。

【ジャズとサッカーは似ている?】
ジャズファンとして有名な岡田武史には、ミュージシャンの知り合いも多いし、「サッカーとジャズが似ている」という発言は色んなところでしている。
インターネットですぐに読めるものだと、玉木正之氏のホームページ内にある蔵出し音楽コラムがある。(http://www.tamakimasayuki.com/musica_bn_45.htm
サッカーとジャズ…、岡田監督が言うように、たしかにこの二つには、似ている部分があると思う。絶妙なスルーパスを見たときは、ジャズに良く使われるコード進行「ツー・ファイブ」を聴いたときのような感覚を持つし、そのスルーパスからのシュートが得点に結び付いたときには、「ドミナント・モーション」を感じる。
「ツー・ファイブ」を簡単に説明すると、マイナーのコードからメジャー・セブンスのコードに4度動く進行のこと。もっともっと簡単な例を出して説明すると、「レ・ファ・ラ・ド」の和音から、「ソ・シ・ラ・レ」の和音に移ることだ。もしピアノやキーボードをお持ちの人がいたら試して欲しい。きっとスルーパスを見たときのように「気持ちいい」はずだ。
「ドミナント・モーション」をこのスルーパスを受ける形で、すごく平たく説明してしまうと、その「ソ・シ・ラ・レ」の和音から「ド・ミ・ソ」の和音に戻ることになる。
キーボードやピアノがある人は、今度は「ソ・シ・ラ・レ」の和音から「ソ・ド・ミ・ソ」を鳴らして欲しい。ファイン・ゴールのような音が鳴るのではないだろうか?
「ド・ミ・ソ・シ」→「レ・ファ・ラ・ド」→「ソ・シ・ラ・レ」→「ソ・シ・ド・ミ」
ジャズを演奏するときは、こういう感じで大体のルールが決まっているが、このルール内に自由がある。「レ・ファ・ラ・ド」と書いているが、「ファ」をどかしてしまっても良いし、オクターブも好きにして良い。和音内であれば音を好きに選んで良いし、リズムをずらしても良い。ばれなければ、たまにルール外の反則技を使っても良い。
サッカーの場合、サイドの選手がクロスを上げるにしても、グラウンダーにするのか、高いボールにするのかは、そのサイドの選手の自由だ。しかし、ペナルティエリア内に攻撃の選手が集まっていた場合、クロスを上げることが「常識的」には正しい。
こういう暗黙の了解や、原則みたいなものが、ジャズとサッカーは似ていると僕は感じるのだ。

【岡田武史の監督としての魅力】
当たり前だが、こういったジャズの知識や音楽に対する教養が、直接的にサッカーに関係するわけではない。即興性などに似ている部分があるとはいえ、ジャズとサッカーは別物だ。しかし、世界的な名選手ではなった岡田武史が、選手を引きつけるためには「何か」が必要だ。その何かが「音楽」、「教養」など様々なものなのではないだろうか? サッカー選手の中には、「自分にはないもの」だったり、「サッカー以外のもの」に引かれる人も多いのだ。
岡田武史は、1998年のフランスワールドカップ、アルゼンチン戦の前のミーティングで、井上靖の「人生」という詩を引用しながら話をした。おそらく、選手の中には「よく分からない」と思う人も多かったと思うが、その「よく分からない」ところが、岡田武史の魅力であり、選手たちを納得させる「何か」なのだと思う。

コラム一覧へ

アクセスランキング

新着コメント

コメントランキング

メールを送る

コラム

レコメンド

海外サッカー週刊誌
[footballista]

(毎週水曜発行:280円)

サカつくDS
タッチandダイレクト

(SEGA)


リアルサカつくの世界
生活に溶け込むゲーム

なでしこジャパン
フォトブック

「あすなろなでしこ」


写真と文 早草紀子

なでしこジャパンの
歩みを伝える
「あすなろなでしこ」

好評連載中
サッカー馬鹿につける薬」(TV Bros.)

PR

厳選リンク