サッカー棚のある書店(最終回)「ブックファースト 渋谷店」
岡田康宏(サポティスタ)
「サッカー馬鹿につける薬」の製作中、編集の小杉さんと「本屋さんでサッカーの本が充実しているお店ってなかなかないよね」「そもそもスポーツ本の棚だって、しっかりしているところは意外と少ないんじゃない?」「書店の店員さんにはスポーツに興味のない人が結構多いんだよね」という話になった。
で、せっかくの機会だし「サッカー馬鹿につける薬」発売のキャンペーンをかねて、サッカー本をポップ付きで並べてくれる本屋さんを伺って、担当の方に直接話を聞いてみようか、ということで生まれたのがこの企画。
最終回の今回はブックファースト渋谷店、伝説のサッカー棚担当者・塚本さんに話を聞いた。
ブックファースト渋谷店は、B1から5Fまで渋谷最大の6フロア70万冊を扱う大型書店だが、昨年10月に閉店。現在、渋谷のブックファーストは、渋谷駅改札を出てすぐの渋谷第一勧銀共同ビル地下1階・地下2階の2フロアに居を移し「ブックファースト渋谷文化村通り店」として営業している。
ブックファースト渋谷店
http://media.excite.co.jp/book/shop/shop04.html
大型書店「ブックファースト渋谷店」が閉店へ
http://www.shibukei.com/headline/4261/
ブックファースト渋谷文化村通り店
http://www.book1st.net/shops/tok_b01.html

ブックファースト渋谷店のサッカー棚は、デザイン系、アート系の書籍と同じ地下1階にあり、その充実振りは関係者の間でも有名で、今回、書店特集をするにあたってサッカー関連書籍の出版社、編集者に話を聞くと、真っ先に上がるのが「ブックファースト渋谷店」の名前だった。
残念ながら、お店は昨年の10月に閉店してしまったが、サッカー棚を担当していた塚本さんは、現在「ブックファースト渋谷文化村通り店」で店長をされていると聞き、お話を伺いに伺った。
「渋谷店は1998年にオープンしたんですけど、ピークは2002年ですよね。あれで大騒ぎしたじゃないですか。そのとき、渋谷が舞台になることも多かったし、あれで若い人たちが波に乗った。お店の雰囲気、コンセプトというのはその時代にあったものになりますから、非常にお客さんの層がマッチしていたということですよね。新しいお店だったので、年配のお客様よりか、若いお客様の方が入りやすかった。だから、そういった商品に特化したりだとか、お客さんの層に合わせたニーズを取り込んだりというのはありますね。中心的な層となるのは、10代後半から20代の男性ですよね。大学生から若いサラリーマン。その世代向けの商品というのを大量に投入しました」
塚本さんは、現在34歳。子供の頃からサッカーをやっていて、応援しているチームは地元・FC東京。それも、まだ藤山(竜仁・東京ガス生え抜きの最古参)が新人で大熊(清・日本代表コーチ)さんが現役の時代、平日の試合には観客が二桁だった頃から応援しているという筋金入りだ。
「今の子供は、僕らが子供の頃と情報量も全然違いますしね。週に1度、『ダイヤモンドサッカー』を見て、月に一度、『マガジン』買うか、『ダイジェスト』買うか、『イレブン』買うかしか選択肢がなかったわけですから。今は、スカパー!で世界中のサッカーが生中継で見られるわけですから格段の進歩ですよね。今の子供たちがうらやましいですよ。僕が子供の頃はシステム論とかなかったですから。基本は4-3-3。4-4-2でも、珍しい時代ですから。
出版の世界も変わりましたよ。昔は読み物ってなかったですから。スポーツノンフィクションの分野が確立されたのは比較的新しいですからね。山際淳司さんとかもいたんですけど、確立させたのはやっぱり金子達仁さんじゃないですかね。あれは分岐点になりましたね。ノンフィクションの手法を取り入れて、選手に緻密な取材をして、物語チックに書いていく。そういった手法が確立されたのは、金子達仁さんの『28年目のハーフタイム』からじゃないですかね。あのときはノンフィクション文学というのはなかったですから、確かにおもしろかったですね。そこから、小松成美さん、増島みどりさん、同じような手法の人がいろいろ出てきた。
ちょうどそのときに中田英寿というヒーローもでてきた。彼は「反世間」というか、マスコミに対しては不信感を抱きながら、王とか長嶋とは違う、新たなヒーロー像を作り上げたわけですよね。そういった人たちが中心となって本が売れていましたからね。中田のような選手は稀有な選手だと思います。ああいった選手は2度と出てこないんじゃないかと。インパクトとしてはクライフのような存在ですよね。
中田が一つの象徴だとすると、もうひとつがベッカムですね。あれはエポックメイキングでした。いわゆる「イケメン」のはしりですよね。今でいう「なんとか王子」ですか。ベッカムは別格でしたね。サッカー界ではもちろん若い才能として注目されていたけれど、2002年に来日して「ベッカム」の本が翻訳されて出たときに、最初からガツンと山積みにしたら売れに売れて。かっこよくて、挫折があって、奥さんはビクトリアで、セレブ的な扱いでワイドショーでも騒がれて。
それ以降だと「オシムの言葉」ですね。新刊が入荷してすぐに大量に追加注文をしました。入れたとたんにすぐ完売。後は置いて売れて、置いて売れて。最初は集英社の人に、売れなかったら買い取ってもらいますよ、と言われたんですけど、結局完売して追加の注文も出しました。あれも稀有な例でした。他にもこだわって置いたのは社会性の強い本。国際情勢と絡めているものや社会背景が読み取れるもの。他の書店さんがなかなか置かないので、そこには力を入れました。ヒット商品は結構出しましたね。その自負はあります。普通は、棚が持ちこたえられないと思うんですよ。すぐに火が付くわけではないですから。ちょっと置いたからって売れるわけではないですから。やっぱり何年かかかりましたね。ピークは2002年ですけど、常に棚の中でフェアをやっている感覚でしたね」
だが、そんな塚本さんであっても、サッカー棚の作りには王道はないという。
「コツはないですね。ごくごく普通。どうやったら置いてもらえるのか、というのはよく聞かれるんですけど、それは論理つけて考えるのは難しい問題があって、TPOがありますからね。私の場合は、店舗状況とか、社会の風潮、社会のトレンド、とかを見ながら、その商品がマッチしているかどうか。時流に乗った商品が出てくれば大きく展開できるしお客さんも付いてくるんですが、法則があるかどうかというと、ないですね。だから、王道はないというか」
ちなみに現在、渋谷文化村通り店ではサッカー本より野球本の方が優勢だとか。
「新しいお店になってから面積も小さくなったし、若干客層も変わって、年配の方が増えたので、野球の本の方がよく売れるんですよね」
93年のJリーグ開幕・ドーハの悲劇から2002年日韓W杯まで、10年かけて盛り上がった大きな波は、2006年ドイツでの惨敗と共に消えていった。いわゆる「ジーコ不況」を、今後どうやって乗り越えていくのか。サッカー界は今、新しい波を起こすスターの登場を待ちわびている。

「『サッカー馬鹿につける薬』…なんてものはありません!
勝っても負けても熱が上がり続けるだけ!!
死ななきゃ治りません……。」
連載の最後を締めくくるにふさわしい素敵なポップ。
ありがとうございました。
サッカー棚のある書店(1)「紀伊國屋書店新宿本店」
サッカー棚のある書店(2)「書泉ブックマート」
サッカー棚のある書店(3)「ブックファースト ルミネ新宿2店」
サッカー棚のある書店(4)「リブロ池袋本店」
サッカー棚のある書店(5)「ジュンク堂書店池袋本店」





















2日間 1週間